リハビリテーションと私の軌跡

日々の臨床のキロク

歩行における支持基底面と重心の関係性

歩行において、下肢の支持性の低下に注目してアプローチを進める機会が多くあります。その際、評価として用いるのは片脚立位時間やその際の姿勢制御、バランス反応の観察が多いのではないでしょうか。本日はその中から療法士が下肢の支持性の評価や支持性を高める目的、歩行の安定性を高める目的で行うことの多いであろう片脚立位評価の有用性についてお話ししていきたいと思います。それにはまず、歩行の特徴をおさえておく必要があります。

歩行は周期性があり、かつ重心は一瞬たりとも支持基底面内に投影されることはありません。立脚中期においてさえ支持側足底の内側に投影されています。ヒトは重心をほとんど左右に動かさずに歩くことができます。2cm四方程度ですね。歩行においては重心の偏位が抑えられている方がエネルギー効率が良いためです。これが歩行中のweight shiftの事実です。

次に片脚立ちを考えていきましょう。片脚立位になるまでは確かにweight shiftが起きていますが、片脚立位になってからはなるだけ姿勢を崩さないように静止しようとしますよね。そしてそれは非常に患者さんにとっては意識的にならざるをえない課題の一つでもあると考えています。つまり、歩行の特徴を考慮するのであれば、片脚立ちの練習はベストランディングではないように思えます。

では、片脚立ちではなくどのような練習が功を奏するのか。端的に言えば何秒も片脚立ちをキープする必要はないのです。一瞬でも良いから足踏みをその場で行えることから始めてみましょう。その際、両上肢の過剰なバランス反応を生じさせないようにボール等を持っていただいたりすると良いと思います。その際にモニタリングしなければばらない点として、両手に持ったボールがあまりにも大きくずれてしまったり、頭頚部や体幹がなるだけまっすぐに保持できない、といった現象を見逃さないようにすることです。

つまり、歩行というのはあくまで自律的・リズミカルな両側交互性の無意識的反復運動であるということを念頭に置いて評価・介入をしていく必要があるのではないかと考えています。

QOLの向上とは?

療法士の方であればQOL(生活の質)をテーマにしたグループワークやセミナーに参加されたことが一度はあるのではないでしょうか。

QOLを向上させるために私たち療法士が考え、できることは何なのだろうか?」といわれた時、皆さんだったらどう考えますか?

 

友だちと喫茶店でお茶しながらお話ができる

温泉旅行に行ける

カラオケができる

飲み会に参加できる

フットサルができる

ボランティア活動ができる

音楽フェス(ライブ)に行ける

 

こういったことがよく挙げられるのではないかと思います。趣味活動や生きがい等と言い換えられる内容ですね。hopeとしても聴取しやすく、頻度も多いです。

これらの内容は間違いなくQOLの向上に繋がると思います。ただ、私はこれだけではないと考えています。

例えば友だちと喫茶店でお茶しながらお話ができる、飲み会に参加できるを考えてみましょう。どちらも一般的には外出することをイメージするため屋外歩行(車椅子なども含む)の獲得などが目標に上がりやすいのではないかと思います。ADLの自立度が高い方の場合はもっともな内容です。ですがそれは少数であり、実際はADLに多分に介助や何らかの支援が必要な方が多いですよね。そうした方々、例えば摂食や着替え、歯磨き、トイレでの排泄、もっと言えばベッド上での体位交換などに不自由を感じていらっしゃる方々においては、先述したQOLの考え方は二手も三手も先のことのように思います。ですから私がQOLにおいて重要だと思うことは、以下の通りです。

 

①むせたりせずに美味しく食事ができる

②安らかに十分な睡眠をとることができる

③出来るだけトイレに行って排泄ができる

これらを可能にする機能的な臥位・座位・立位の獲得に向けてアプローチする

 

茶店でお茶をするにも飲み会でつまみを片手に生ビールを飲むにも、安楽に摂食できる身体状態に整っていることが大前提です。座位を保持するのに手の支えが必要であれば大変ですよね。夜に眠れなければ精神的にも疲弊を来しますし、日中の倦怠感やらで活動量低下に繋がるかもしれません。排泄行為は1日の中で必ず複数回は行わなければなりません。ベッド上で行うならばわずかでも体位交換が出来ること、トイレで行うならベッド上から起き上がってトイレに向かって更衣をして…といったように一連の行為過程の一つ一つを考えなければなりません。こうした基本的な行為を非常に努力的に行い続けることはご本人も、そして介助する方も大変です。先の目標を据えておくことは必要です。ただし、患者さまにとってはもっともっと身近なところで大変な思いをされているかもしれません。ヒトの生活行為活動の基本的な部分がより上位の目標、その人らしさの復権へと繋がっていくのだという視点を持って評価・介入を行っていく必要があるのではないでしょうか。

 

【姿勢の評価】背臥位【第1回】

本日からは、評価の基本ともいえる各姿勢の特性についてまとめていこうと思います。まずは背臥位です。

背臥位は、身体の各部位が常にベッドや床のような支持面に支えられているため、安楽かつ非常に安定しているということが理想的です。それに加えて、背臥位という姿勢は続く寝返りのような抗重力姿勢の開始姿勢ともいえます。つまり、幅広い支持基底面かつ低重心、従重力的なこの姿勢において、姿勢筋緊張が最適化されており、安楽でいられるということが、次々に続く姿勢変換の基本として重要であると言い換えることができます。その最適化された姿勢筋緊張があるからこそ、続く抗重力姿勢への姿勢変換(動作)においても過剰な努力性を伴うことなく、非常に滑らかに協調された動きとして表出されてくるのです。
頭部や四肢はリラックスして支持面に置かれていることが理想的です。しかし、臨床場面では、こうした姿勢特性があるにも関わらず、異常なまでに姿勢筋緊張を高めてしまっている様子が多く観察されます。たとえば、ベッド端にしがみつくように手で掴んでいたり、頭頚部を伸展させたり、手掌や踵部で押し付けて肩や腰を浮き上がらせたりする必要は本来はないのです。リラックスした姿勢であるにも関わらず、眉間に皺を寄せるように表情が強張っていたり、どこか息苦しそうに呼吸をしていたり、常に身動きをしてしまい落ち着かない様子なども挙げられます。こうした内容が観察されたら、患者さまへの問診も交えつつ、「なぜ?」を掘り下げていきましょう。そして、背臥位で観察された特徴が、他の様々な姿勢や姿勢変換においても通ずる部分がないかを確認してみてください。例に挙げると、背臥位で頭頚部や上肢を支持面に押し付けている患者さまは、寝返りをして起き上がろうとする際に伸展パターンでのけ反ってしまう方が多く観察されます。立ち上がりでは支持物を引っ張らないと立てず、立位保持では手を離したら倒れてしまうなどです。各姿勢を通して共通する部分が多ければ多いほど、問題点として優先順位は高くなります。クリニカルリーズニングの手順の一考となれば幸いです。

回復期リハビリテーション病棟のジレンマ

回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)では全国的に病床数及び提供単位数の拡充が進み、量的評価のみならず質的評価を問われるようになりました。具体的には回復期リハビリテーション病棟入院料1~6の算定に定められた基準にあるように、リハビリテーション実績指数(以下、実績指数)や重症患者割合、そしてその改善率、在宅復帰率などが挙げられます。

このうち実績指数にはジレンマがあります。実績指数の算出には、2つの数値が関与します。1つはFIM利得(入院時と退院時の運動FIMの差)。もう1つは在院日数です。細かい計算式は割愛しますが、端的に言うとFIM利得を在院日数比率(各疾患別の回リハ病棟の上限日数で在院日数を除算した数値。在院日数が短いほど数値は小さくなる)で除算して算出します。

要するに、実績指数を高くするための要素は2つあります。1つはFIM利得を大きくすること。FIM利得は入院時と退院時の運動FIMの差であることはご説明しました。よって、出来る限り日常生活動作の自立度を向上させることが必要となります。これだけ見ると時間をかけてでも自立度を向上させた方が良いように思えます。
しかし、もう1つの要素とミスマッチするのです。もう1つの要素は在院日数は出来るだけ短縮した方が実績指数は高く算出されるということです。上限日数ぎりぎりまで在院すると、せっかく自立度を向上させて得られたFIM利得を大きくすることが出来ないのです。

うまく出来ています。要するに「出来るだけ短い在院期間で出来るだけ自立度を向上させなさい」というお達しなのです。そしてこれは重症例であっても例外ではありません。実績指数の計算式から重症例(または非常に軽症である例)を除外することが出来るのですが、一定数しか認められておらず全てを除外することは出来ません。よって重症例、つまり全介助の患者さまであっても出来る限り「しているADL」へ繋げていく必要があります。

これに対する私の答えは「セルフケア項目を何とかして1点でも向上させる」です。ただし、今までの記事でお示ししたように、何が何でも患者さまに力一杯頑張らせて日常生活を送らせるということではありません。重症例におけるセルフケア項目の多くは、車椅子上で行うことが多いです。例えば片麻痺例であれば、歯ブラシや箸(スプーン)、衣服、リモコン、蛇口、トイレットペーパー、車椅子のブレーキ等々に非麻痺側上肢をリーチして掴み、操作することが出来れば介助量は減少します。その際に重要となるのが座位の安定化です。車椅子の背張りに寄り掛かって崩れた姿勢のまま非麻痺側上肢をリーチするのではなく、出来るのであれば背張りから能動的に体幹を起こし、非麻痺側上肢をリーチすることが重要です。こうした生活行為活動の一つ一つを細かく評価・アプローチしていくことが私たち療法士に求められることなのだと感じています。

治療の最重要要素(ハンドリング)

私たち療法士は、患者さま・利用者さまの身体に直接触れて治療することができます。
患者さま・利用者さまの多くは、以前は何気なく日常生活を送っていました。しかし、疾患は問わず急激な身体状態が変化してしまうと、その変化に慣れるまでの時間的猶予は全くありません。今まで当たり前のように出来ていたことが出来なくなってしまったことに不安や焦燥を感じることでしょう。ひどい時には性格が変貌してしまうほど強いストレスに曝されることになるでしょう。ひどく身体的・精神的に緊張しているが、そんな状況を打破するために何とかして「起きよう」、「歩こう」とするのでしょう。結果として、今まで何気なく出来ていた行為であっても失敗を重ね、ますます自身を追い込んでいってしまうのかもしれません。そんな状況の中で、何とか頑張って成功したとします。それがいかに努力的で非効率的で、痛みを伴い、息をこらえ、顔を真っ赤にしていても、成功したことには変わりありません。それは脳の中に成功体験として着実に神経ネットワークの変化をもたらします。そして、それによりその行動パターンは鍵と錠前の関係のように、毎度何気なく出現するものとして強化されていくことになります。その背景には脳の可塑性(body shemaのリアレンジメント)が関わってくるため非常に厄介となるのです。

大雑把にハンドリングとは、用手接触による患者さま・利用者さまへの操作・刺激の入力全般をまとめて言います。自分が患者さま・利用者さまに「こうしてほしい」、「こうなってほしい」という目的があって、患者さま・利用者さまに触れて何らかの刺激を入力しようとします。しかし、こちらが意図したことを本当に感じ取れているでしょうか。非言語的にです。これが非常に重要なことだと思っています。療法士同士で練習している時も、これを再確認しながら行うと良いと思います。被験者側も療法士ですから、何となく押されているとか抵抗を感じるとか寄り掛かられているといった感触が感じ取れると思います。そういった感覚的なところをお互いフィードバックしてもらうことが上達のコツだと思います。

理想的なハンドリングとは、こちらのハンドリングの狙いと受け手の経験のズレが少ない状態です。それは追従性を得ている状態であって、決して抵抗や依存している感覚などは生じていない状態です。意外とみんな見た目の方法論ばかり一生懸命で、相手がどのように感じているかに対する意識は少ないように思います。もし見た目の変化(アライメントや動き)が同じようであっても、相手がどう感じているか分からなければ、もしかすると代償をどんどん強化しているだけかもしれません。
例えば、片麻痺患者さまであれば、発症してはじめて受けるリハビリで、療法士が行うハンドリングが患者さまにとっては「正しい上肢の動かし方」になるはずです。そこで代償を伴う動きを誘導してしまえば、患者さまはそこで感じた感覚を手掛かりに運動を覚えるかもしれません。そうして生まれた代償に療法士は「そうじゃなくて」とか「こうしてください」とか言いますよね。でも、その悪い動きを出すための刺激やヒントは、もしかしたら療法士のハンドリングが与えてしまっている可能性があるのです。療法士は良くも悪くも「患者さまを変えてしまえる立場にある」ことを決して忘れてはなりません。

また、本来なら関節にありえないような動きを出せば、他の部位が動かざるを得なくなります。健常者同士では僅かな他部位の動きはそれほど気にならなくても、患者さまにとってはバランスを崩すような外乱になるかもしれません。それはバランスを保持したり、修正するための反応を生み出してしまう原因となるかもしれません。もちろん、姿勢調節を課題とする場合には、そのような刺激を狙っていく場合もあります。しかし、姿勢調節能力が低い患者さまにとってはただの恐怖体験になっているだけかもしれません。バランスを取ることばかりに気が向いてしまえば、はじめに療法士が狙った上肢に対する刺激に注意を向けたり感じたりする余裕を奪っているだけかもしれません。

ですから見た目の方法が大事なのではなく、そこに内在する療法士側の目的とモニタリングする能力が大事であると感じています。受け手に立って、違いが分かることで、自分の行っていることに気付くきっかけになると思います。そうすれば患者さまにとって意味のあるハンドリングができる近道になるかもしれません。治療中、患者さまに感触を尋ねることは重要なのです。心地良く、安楽に感じられているかどうか。患者さまや利用者さまが私たち療法士にとって最善の教師なのです。一つ一つの反応が私たち療法士に知見を与えてくれているのです。これを決して忘れてはなりません。

では、努力的で非効率的な動作パターンが強化されてしまった患者さまに、再びリアレンジメントを引き起こすためには、どうすれば良いのでしょうか。それは、患者さまにとって最小限の支援を受けながら、もしくは支援なしで達成できるギリギリの課題設定とすることが重要です。その際、できる限り代償反応は自律的に抑制できていることが望ましいです。あくまでそれには患者さま自身の能動性が必要です。他動的に行うだけでなく、介入の中で患者さま自ら環境に対して能動的に探索していく場を設けて支援していくことが重要です。退院したら療法士による支援は基本的になくなります。患者さま自身が環境と相互作用していくことができる身体状態を整えることが私たち療法士にできる最善策となるのです。

障害受容という観点からもハンドリングは重要です。患者さまが自身の身体状態と将来的なゴールを早々に受容できるとは到底考えられません。それに対して、患者さまに無理難題を課し、積極的に失敗体験をさせることで振り返させて自覚させようとする手段があります。
しかし私は、患者さまは自身が失敗してしまっていることを分かっていないわけがないと思います。発症して動かなくなった身体を一番苦しく感じているのは患者さま自身だと思います。他の誰でもありません。患者さまは出来ないことを分かっていないのではなく、「認めたくない」のだと思います。言葉で解らせるのではなく、失敗体験をさせるのではなく、ただハンドリングしている最中にはとても良く動けることを繰り返していくことが前向きな失敗体験となっているのではないでしょうか。感情的には「この人と一緒にやると起きれる、立てる、歩ける」といったところでしょうか。それは裏を返せば「この人と一緒じゃないと自身ではできない」と分かっているから思えるのではないでしょうか。最終的に療法士がいなくても自立できることがベストですが、出来ないことを少なからず受容し、出来るところは自身で行い、出来ないところは助けを呼ぶ。これが患者さま・利用者さまのQOLの向上に繋がっていくのではないかと思います。

障害受容

障害受容とはすなわち価値観の転換です。

それを成すには、患者さま自身に気付きが得られるまで私たち療法士は積極的に待つことが必要です。米国ニューヨーク大学 Rusk 研究所がまとめた神経心理ピラミッドでいえば、自己の気付き(self awareness)と言えば頂点であり、あらゆる低次脳・高次脳機能が協調できて初めて出現するものとされています。よって療法士としては、姿勢筋緊張を整えることで、より低次脳機能の改善を図り、その結果として高次脳機能、自己の気付きのレベルに達せられる身体環境に整えていく治療を展開していくことが重要と考えています。

よく障害受容について、「患者さまに失敗体験を繰り返して認識してもらう」という方がいらっしゃいます。失敗体験はヒトにとっては必要でありますが、それはヒトの発達において新たにスキルを獲得するにあたって言えることであり、「患者さまに対して出来ないことを出来ないと分からせるため」にあえて失敗するような経験を提供することではありません。患者さまは発症・受傷によって、急激かつ明確な身体状態の変化にさらされ、それに適応する猶予など全くなく、身の回りの動作までも著しい制限を来たしたため非常に強い混乱や不安に襲われていることは明らかです。患者さまは今までなんとも思わなかった諸動作が出来ないことに焦りを感じていることでしょう。つまり、患者さまは発症・受傷後、誰よりも「これが出来ない」、「あれが出来ない」などと出来ないことを理解していると考えられます。また発症・受傷後、私たち療法士が見ていない時間の大半で(病棟生活で)失敗体験を積み重ねてきていることでしょう。それに加えて、あえて失敗体験を付与するのはいかがなものでしょうか。出来ない、ということを理解はしているでしょうが、それを簡単に受け入れられないから価値観が転換できないのではないでしょうか。不安や焦りがあるから患者さまは努力してしまう。しかし、その努力は環境適応においては非常に邪魔な存在ともいえます。ですが、そんな状態にあるから頑張ってでも出来てしまったことに対しては強く動機付けされ、達成感を得るため、情動記憶および情動体験の記憶(内示的・外示的)の双方が強く形成され、同様の環境において頑張ってでも出来たパターンが優先的に表出され、画一的なパターンへと陥る可能性があります。価値観を転換させるには、患者さまが障害を否認、混乱にある状態において、今現在の身体環境に基づいた環境との相互作用の中で、「障害を負った身体でもこんなに楽に動けるのだ」とか「これなら安心して出来そうだ」などと現身体状態を積極的に許容できる状態へと支援していくことが重要ではないでしょうか。ですから基本的には用手接触をとり、患者さまに対して療法士までも環境の一部となっているわけですから、ハンドリング上で患者さまがこの上ない安楽感を得たときに初めて患者さまは療法士が意図していることを共感しうる可能性があり、そこで初めて患者さまに道を示す療法士の在り方があるのではないでしょうか。また、介入中、患者さまに用手接触しながら寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行していくことで、出来ることも分かるがそれと同時に「介助がないと出来ないのだ」ということも暗に患者さまに療法士から提示できていると考えます。これが積極的な失敗体験の積み重ねによる患者さま自身の気付きにつながる可能性があるのではないかと考えています。何も出来ないことをただ「出来ない」と言ったり、やらせた挙句失敗させることは間違っていると思います。患者さまは出来ないことを理解していますが、それを理解したくないから余計に焦り、不安にかられてしまう悪循環を辿るのだと考えます。

療法士として患者さまと接する以上、個人のアイデンティティのみに捉われた精神論で語ってはいけません。患者さまは一人一人が個性をもったヒトであり、一人一人が違うヒトである以前に、みんな同じヒトなのです。リハビリテーションとは、人間らしさの復権です。療法士はカウンセラーやナースとは違い、唯一患者さまに身体的に介入できる職種なのです。人間らしさとは何かを追求し、患者さまに現れる心と体の変化を理解し、同時に各アイデンティティ(延長意識)を加味する視点が必要となるのではないでしょうか。

 

患者さまのために、これからも精進していきたいと思います。今回は以上です。

最大抵抗への固執

患者さまや利用者さまへリハビリテーションを行っている際、「そんなに力入れなくてもいいのになぁ」と思ったことはないでしょうか。

患者さまや利用者さまの多くは、ベッド上で寝返ったり起き上がる際にはベッド柵を思い切り握りこんでいたり反り返るように伸展していたり、座っているだけにも関わらずひどく姿勢は非対称性を呈して手で支持していないと今にも倒れてしまいそうです。

これらの現象を体験するのに分かり易い例をお示しします。ベッドからどちらか一側半身を出して、ぎりぎり床面に半身が着かないところで落ちないように踏ん張ってみてください。この際、難しいですがベッドから出した半身でバランスを取ってはいけません。すると、ベッドに残した半身にはひどく力が入って何とか落ちないようにします。この状態が、患者さまや利用者さまにおいて、ベッド上で起きていると考えてみてください。ベッド上に全身が支えられているのにも関わらず、です。これを最大抵抗への固執といいます。片麻痺例をイメージしてみると、実際にはそこに麻痺側半身があるはずなのに、ミスマッチが生じているのです。このような状態を私たちセラピストが見逃してしまうと、患者さまや利用者さまは使いやすい非麻痺側半身を過剰に使用し、一方麻痺側半身の不使用がより強化されていきます。すると麻痺側半身には然るべき感覚入力が減少し、どんどん左右半身の解離が生じていくことで、非麻痺側半身の過剰努力が更にパターン化していくことになります。

患者さまらは急激な身体状態の変化に混乱し、先行きの見えない不安などに襲われ、それでも何とかしないと・・・とお考えになるのだと思います。すると使える手足を力一杯に使用して何とか目的を果たそうとする。ですから、急性期のリハビリテーションにおいては特に、関節可動域拡大や筋力強化を否定するわけではありませんが、前述の過剰努力によるパターン化及び一側または部分的な不使用に対するアプローチが重要となってくると考えています。実際、回復期に入院された患者さまを見ると、どのようなリハビリを受けてきたかを垣間見ることが出来ます。ガシガシ関節可動域や筋力強化だけをベッド上で受けていた患者さまよりも、重力環境下に患者さまを適応するよう促すようなアプローチを受けていた患者さまの方が生活機能の向上に結び付きやすいと感じています。付け加えておきますが、ただ無理矢理に離床させればいいというわけではありません。可及的にリラックスした状態で適応を促すことが重要だということです。機能的な部分を局所的にしか捉えられていないと、患者さまや利用者さまの生活機能を評価することは不可能だと考えています。木を見て森を見ずではいけません。リハビリテーションを行う際には多面的に捉えることが私たち療法士には強く求められているのです。

 

患者さまのために、これからも精進していきたいと思います。今回は以上です。