リハビリテーションと私の軌跡

日々の臨床のキロク

回復期リハビリテーション病棟のジレンマ

回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)では全国的に病床数及び提供単位数の拡充が進み、量的評価のみならず質的評価を問われるようになりました。具体的には回復期リハビリテーション病棟入院料1~6の算定に定められた基準にあるように、リハビリテーション実績指数(以下、実績指数)や重症患者割合、そしてその改善率、在宅復帰率などが挙げられます。

このうち実績指数にはジレンマがあります。実績指数の算出には、2つの数値が関与します。1つはFIM利得(入院時と退院時の運動FIMの差)。もう1つは在院日数です。細かい計算式は割愛しますが、端的に言うとFIM利得を在院日数比率(各疾患別の回リハ病棟の上限日数で在院日数を除算した数値。在院日数が短いほど数値は小さくなる)で除算して算出します。

要するに、実績指数を高くするための要素は2つあります。1つはFIM利得を大きくすること。FIM利得は入院時と退院時の運動FIMの差であることはご説明しました。よって、出来る限り日常生活動作の自立度を向上させることが必要となります。これだけ見ると時間をかけてでも自立度を向上させた方が良いように思えます。
しかし、もう1つの要素とミスマッチするのです。もう1つの要素は在院日数は出来るだけ短縮した方が実績指数は高く算出されるということです。上限日数ぎりぎりまで在院すると、せっかく自立度を向上させて得られたFIM利得を大きくすることが出来ないのです。

うまく出来ています。要するに「出来るだけ短い在院期間で出来るだけ自立度を向上させなさい」というお達しなのです。そしてこれは重症例であっても例外ではありません。実績指数の計算式から重症例(または非常に軽症である例)を除外することが出来るのですが、一定数しか認められておらず全てを除外することは出来ません。よって重症例、つまり全介助の患者さまであっても出来る限り「しているADL」へ繋げていく必要があります。

これに対する私の答えは「セルフケア項目を何とかして1点でも向上させる」です。ただし、今までの記事でお示ししたように、何が何でも患者さまに力一杯頑張らせて日常生活を送らせるということではありません。重症例におけるセルフケア項目の多くは、車椅子上で行うことが多いです。例えば片麻痺例であれば、歯ブラシや箸(スプーン)、衣服、リモコン、蛇口、トイレットペーパー、車椅子のブレーキ等々に非麻痺側上肢をリーチして掴み、操作することが出来れば介助量は減少します。その際に重要となるのが座位の安定化です。車椅子の背張りに寄り掛かって崩れた姿勢のまま非麻痺側上肢をリーチするのではなく、出来るのであれば背張りから能動的に体幹を起こし、非麻痺側上肢をリーチすることが重要です。こうした生活行為活動の一つ一つを細かく評価・アプローチしていくことが私たち療法士に求められることなのだと感じています。